絶対領域
気づいたら、女子高生の涙は止まっていた。
「明日会えるかはわかんねぇけどな」
低劣な揶揄が横やりしてきたが、萌奈さんは気にせずにもう一度強く告げた。
「明日、頑張ろうね!」
明日、西校では、文化祭が開催される。
たぶん、あの女子高生は、萌奈さんと同じクラスなんだ。
どうなるかわからないけれど、無事に明日を迎える。
そのために、僕も、頑張りたい。
「や、矢浦さん、ありがとうございます!また……っ、また明日!会えると、信じています!!」
女子高生は力を振り絞り、なんとか立ち上がる。
そして、萌奈さんに一礼して、おぼつかない足取りで走り去っていった。
「人質がいなくなったからって、交換条件をうやむやにすんのは無しだぜ?」
「言われなくたってわかってる。卑怯者のあんたたちと一緒にしないで」
ふわふわな髪の毛を、さらりとなびかせる。
高飛車な萌奈さんに、リーダーらしき男はあからさまなくらい不機嫌になった。
よくあずきさんたちが、「萌奈さんの毒舌は天然だから気を付けろ」と言っていたっけ。
こ、これも、天然なの?
無自覚な毒舌なの?
故意的にしか見えませんよ……。