絶対領域
「な、んで……」
白く細い指先で、黒い髪に触れる。
垣間見えた2つのピアスが、紅色の日差しに反射した。
「なんで、庇ったりしたの……っ」
萌奈さんは、ほのかな狼狽を隠せずにいた。
しかし、当然返事はない。
僕には、ちょっと、わかる気がする。
きっと、大層な理由なんかない。
世奈くんも、翠くんも、ただ純粋に萌奈さんを守りたかったんだ。
萌奈さんが無傷にこだわるように、2人も萌奈さんに傷がつくのが嫌で。
無駄な行為だったとしても、自己満足で終わったとしても、1秒でも長く萌奈さんを守り通したかった。
その気持ちは、2人だけのものじゃない。
僕も、同じだ。
「ぼ、ぼ、僕だって……!」
「……ゆか、りん?」
僕も、萌奈さんの前に立ちはだかる。
本当の本当は怖くてたまらないけど、リーダーらしき男にガンを飛ばした。
僕だって、守りたい。
誰かを守れるようになりたい。
……ううん。
なるんだ!
「身を挺【テイ】して守るってやつ?かっけぇなぁ」
ひどい棒読みだ。
心にもない感想だと、あえて教えているようだ。
「でも、俺、そういうの嫌いなんだよな。すげぇうっざい」
本心には、心が……殺意がこもってる。