絶対領域
これでも双雷の幹部なんだ。
ちゃちな殺気ごときじゃ、逃げたりしない!
「さっさと消えろ」
冷酷な眼光から視線を逸らさず、ずっと睨み続けた。
スタンガンが、首に刺さる。
唇から息が漏れた瞬間に、脳を揺さぶるような激痛に襲われた。
「ぅぐ、っあ……!!」
視界が朦朧とする。
痺れた体は、言うことを聞いてはくれなくて。
力が抜けてしまえばもう、前に倒れる他ない。
「ゆ、ゆかり」
ん、と萌奈さんがつけてくれた可愛すぎるあだ名を最後まで耳にすることさえ、許さずに。
ブツリ。
意識はぶった切られてしまった。
役立たずで、ごめんなさい。
あぁ、どうか、お願いです。
僕のことで、萌奈さんがそんな悲しそうにしないで。
「さて、いよいよお前の番だ」
「……っ」
「安心しろよ。すぐにお仲間のところに行かせてやるからよ」
赤信号の横断歩道。
夕日を浴びて、いくつもの影が伸びていく。
その中でたったひとつ、ひと際華奢で濃い影が描かれていた。
「私もあんたたちみたいに外道で卑怯だったら、あんたたちを適当に葬ったのに。あ、私たちの気持ちなんて、バカなあんたたちにわかるわけないか」
この場にいる誰よりも小さく、か弱そうなのに。
この場にいる誰よりも強く、たくましかった。
萌奈さんは、最後の最後まで“強者”で在り続けた。
「うっせー、黙れ!」
リーダーらしき男は、八つ当たりするみたいに電気を放つ。
意識を失って倒れた萌奈さんに、しばらくの間、ガラの悪い連中は誰一人として近寄ることはできなかった。