絶対領域
ここからじゃ、何を話しているのか聞こえない。
でも、何か取引しているのは、真剣な空気から伝わってくる。
若干前のめりな体勢になりながら、じぃっと観察していると。
「っ!」
一瞬だけ殺気がこっちを刺した。
条件反射でたじろぎ、一歩退いてしまった。
……い、今……っ。
見間違い?
いや、そんなんじゃない。
確かに、長髪の男の子が、こっちを見てた。
目が、合った。
私が隠れてることを勘づかれた?
「はぁ……」
長髪の男の子が、観念したように息を吐いた。
一歩、私のいる方向とは反対に動く。
「オーケー。その情報とやらを聞こうじゃないか」
「サンキュ。場所を移そう」
渋々了承してくれたようで、長髪の男の子が廊下の奥へ手招いた。
気弱そうな男の子も802号室を離れていく。
薄い赤茶色の髪の男の子が、2人についていきながら、振り返った。
「い・ま・だ」
口をパクパクさせて、病室の扉を指差す。
あれが、合図だ。