絶対領域
あず兄に殴られて朦朧としているリーダーらしき男に接近し、両手で胸倉を鷲掴みにした。
無理やり起こして、問いただす。
「どうして、私たちを狙ったの」
いくら雨に打たれても、激情は冷めない。
むしろ、よりいっそう熱くなってる。
きつく睨む私は、相当ひどい形相をしているのだろう。
リーダーらしき男は真っ青になって、怖じ恐れている。
「ただの新人いびりじゃないんでしょ?」
「ひぃ……!」
「答えて!!」
ダダ洩れた殺気を纏いながらそう急かせば、戦慄した唇が開かれた。
「……く、」
「え?」
「“紅【クレナイ】組”の奴に、頼まれたんだ……!」
息も絶え絶えに白状された真実に、ヒュッ、と喉が絞まる。
一瞬、聴覚も視覚も遮断されて、世界が大嫌いな紅色に穢れていった。
なぜ。
その、名前が。
二度と耳にしたくなかった、のに。
なぜ。
『ただでさえ、極道とかそっち系が今やべぇって噂なのに』
『あー、あれだろ?くそ恐ぇ極道から脱走者が出たってやつ。でもそれって結構昔の話なんじゃねぇの?』
『いやそれがさ、最近また――』
先日、ゆーちゃんのストレス発散の買い物に付き合った時に盗み聞いた、他愛ない噂話。
鼓膜を支配して、再生される。
『――なんか企んでるらしいぜ、最強のヤクザで有名な紅組が』
なぜ、“あの時”から時を経て、また。
私たちを苦しめるの。