絶対領域
文化祭開始まで、残りあと数分。
それまでにこの緊張とネガティブ思考と不安と羞恥心と吐き気と眩暈【メマイ】……その他諸々、どうにかしろって?
「無理だよぉぉ!!」
無茶言わないでよ!
なんで時間は止まってくれないの!
さっきから心臓はバックバクだし、ほっぺたはあっつあつだし、心なしか喉の奥もイガイガするし!
どうにかなってしまいそう。
悶々としていると、更衣室の扉がガチャッと開いた。
「あ、あの、矢浦さん……?」
入ってきたのは、昨日ガラの悪い連中に巻き込まれたクラスメイトだった。
白鳥の衣装を作ってくれた子、だったよね。
いわば、衣装の生みの親。
そんな子にみっともない姿は見せられない!
「な、何?」
条件反射で、つい余裕ぶって平静を装ってしまった。
しかし声をかけても、一向に反応が返ってこない。
おかしいな。
ハッ!まさか、私の似合わなさにドン引きしてる!?
「……ど、ど、どうかした?」
「あっ、す、すみません!あまりに綺麗で、見惚れてしまいました!」
恥ずかしそうに両頬を抑える仕草に、キュンとした。
な、何この子!
可愛すぎるし、いい子すぎる!
「それで、私に何か用?」
「あ、えっと……もうすぐ時間だと伝えに来たんです。それから……」
それから?
まだ何かあるの?