絶対領域
どこを歩いているかわからなくなってきた。
ついに足の力が抜けて、視界がグラリと傾いた。
このままじゃ倒れる!
そう、頭では理解しているのに、受け身の体勢を取ることもできない。
あ……これ、ちょっとやばいかも。
「萌奈!」
……え?
転倒しそうになった体が、誰かの腕によって、静止する。
後ろから誰かが支えてくれたようだ。
でも、一体誰が……?
ふらつく私に、助けてくれた誰かが顔を近づけてきた。
コツン、とお互いの額が当たる。
「やっぱり熱がある」
「……お、り……?」
意識も視界もぼんやりしているけれど、わかっちゃうよ。
左目の下にほくろのある整った顔立ちを、“あの時”ずっとそばで見ていたから。
オリは?
……オリも、私のこと、わかる?
「熱があるのに、無茶するな」
「……私、熱あるんだ。知らなかった」
オリのかすれた声に、私はえへへとだらしなく笑ってしまった。
昨夜、どしゃ降りの雨の中で傘もささずに、戦っていたせいかな。
でも、いいの。
熱を引いたおかげで、オリと話せているから。
苦しくても、幸せなの。