絶対領域
オリは呆れながら額を離して、軽々と私を持ち上げた。
お姫様抱っこだ。
「じっとしてろよ」
大きな手で覆った私の頭を、自分の胸板に引き寄せる。
私はオリに体重を預けて、目を閉じた。
ひどいよ、オリ。
どうしてくれるの?
こんなことされたら、もっと熱が上がっちゃうよ。
オリの腕の中が居心地よくて、うとうとする。
せっかくのお姫様抱っこを心から堪能できずに、保健室にたどり着いてしまった。
「……保健医、いねぇのか」
しん、と静まり返る保健室には、誰もいない。
消毒液の匂いが漂うだけ。
オリはひとまず、空いているベッドに私を寝かせた。
「……あ、りがと、ね」
横になっても、身体は楽にならない。
それどころか、熱があると知った途端、全身が重たくなる。
だけどね、変なの。
心はすごく軽いんだ。
きっと、オリと2人きりだからだね。
「ねぇ、オリ」
「ん?」
「なんで、私の体調が良くないこと、気づいたの?」
皆、わかってなさそうだった。
私ですら、違和感を覚える程度だったのに。
オリだけが、気づいてくれた。