絶対領域
熱くて、冷たくて、……温かくて。
何がなんだかわからなくなる。
それでも、いい。
オリの温度を確かめるように、夢中で唇を求めた。
名前を呼び合って、味覚の狂ったキスを繰り返す。
なんだか懐かしい。
幾度となくキスをした、“あの時”に戻ったよう。
これは、現実?夢?
……どっち?
キスの雨が止み、オリの息が遠ざかっていく。
代わりに、静かに前髪を撫でられた。
冷たくて心地よい手のひら。
ずっと撫でていてほしい。
無意識に瞼が下がっていった。
オリが飲ませてくれた薬は、即効性だったのだろうか。
さっきまでの苦しさが嘘みたいに、甘美にほどけていく。
「おやすみ、萌奈」
オリの手のひらが、汗ばんだ額から熟れた頬へと滑らされる。
大事な宝物を扱うように触れながら、もう1回、短い口づけを落とした。
完全に意識を手放す直前。
ほんのわずかに開いた視界に映ったのは、久しぶりに見た、オリの柔らかな微笑みだった。
「……ま、って……、」
オリ。
まだ、ここにいて。
絞り出したうわ言は、オリには届かずに。
否応なく眠ってしまった私を残して、保健室を出て行った。
甘いはずのリップ音をほろ苦くして。