絶対領域
――バタン。
乾いた音が、明瞭に響く。
オリは閉め切った扉にもたれかかり、目元を片手で覆った。
「皆、驚いていたぞ。萌奈氏がホストクラブを出て行った後、ユーも走っていってしまったのだから」
保健室の扉の真横から、優雅な声音を投げかけられる。
だが、オリは無反応だ。
始めから勘づいていたようだ。
それを見越して、オウサマは不敵に笑った。
「まさか萌奈氏が体調を崩していたとは。我は疑いもしなかった。あ、安心してくれたまえ。事情を察して、皆には我が説明しておいたゆえ」
説明した後に、ここで待ち伏せしていたらしい。
抜け目のない人だ。
「それにしても、」
レッドオレンジの前髪を留めてるヘアピンが、妖艶にきらめく。
「萌奈氏は、ユーを心から信頼しているようだな」
指の間から垣間見える、オリの眼。
ギロリ、と尖った視線でオウサマを貫いた数秒後、やるせなく瞼を閉じた。
「あれはプラシーボ効果であろう?」
「……だから何だ」
オリが飲ませたのは、水のみ。
薬は最初から無かった。
むやみやたらにそこらへんの薬を使って、症状を悪化してしまうのを懸念して、病人の私を配慮してくれたんだ。