絶対領域





「萌奈氏の苦痛を少しでも和らげようと、その効果を実行するほど、ユーは萌奈氏が大切なのだな」


「…………」


「そして萌奈氏も、ユーが大切で信じているからこそ、効果がもたらされたのだろう」


「…………はぁ、悪趣味な奴」




覗き見するな、と付け足してボヤきながら、オリはオウサマを横切って歩いていく。


人差し指でなぞる唇には、ほんのりと熱が帯びていた。




オウサマは薄い扉のほうを射抜いて、意味深に口角を上げた。



「……やはり、緋織氏の守りたい者は、彼女だったのだな」




切なげな呟き声を、自らの足音で濁らせる。


慌てたフリをして、オリを追いかけた。



「待ちたまえ!皆がどこにいるか、ユーはわからぬであろうが!」





隣に並んだ影が、褪【ア】せていく。


手を伸ばせば近くにいたのに、もうあんなに遠い。



徐々に温もりも奪われて、唇は乾燥していった。





『ごめん。もう、お別れだ』



嫌だ。

お願い、待って。


行かないで。



もう少しだけでいい。

そばにいて。




「オリ……っ!」





< 344 / 627 >

この作品をシェア

pagetop