絶対領域
「萌奈氏の苦痛を少しでも和らげようと、その効果を実行するほど、ユーは萌奈氏が大切なのだな」
「…………」
「そして萌奈氏も、ユーが大切で信じているからこそ、効果がもたらされたのだろう」
「…………はぁ、悪趣味な奴」
覗き見するな、と付け足してボヤきながら、オリはオウサマを横切って歩いていく。
人差し指でなぞる唇には、ほんのりと熱が帯びていた。
オウサマは薄い扉のほうを射抜いて、意味深に口角を上げた。
「……やはり、緋織氏の守りたい者は、彼女だったのだな」
切なげな呟き声を、自らの足音で濁らせる。
慌てたフリをして、オリを追いかけた。
「待ちたまえ!皆がどこにいるか、ユーはわからぬであろうが!」
隣に並んだ影が、褪【ア】せていく。
手を伸ばせば近くにいたのに、もうあんなに遠い。
徐々に温もりも奪われて、唇は乾燥していった。
『ごめん。もう、お別れだ』
嫌だ。
お願い、待って。
行かないで。
もう少しだけでいい。
そばにいて。
「オリ……っ!」