絶対領域
こんなんじゃ、怪しまれちゃう。
動じずに、普通にしてなくちゃなのに。
鼓動は激しくなって、また全身が熱くなっていく。
「初めから知ってはいたけど、やっぱり情報と実際に見るのとじゃ違うな」
錯乱している脳では、呑み込みづらい。
震えた眼差しをゆっくり、バンちゃんに向けていく。
……今の、どういう意味?
視線が、繋がる。
この瞬間を待っていたように、バンちゃんは弱々しく目尻を垂らした。
「はぐらかさなくて、いいよ」
透明感のある、くすんだ桃色の毛先が、ゆらゆら揺れる。
それにつられて、きっと私の目も揺れている。
「全部、知ってるから」
全部って……どこから、どこまで?
何を、知ってるの?
困惑して、怖い。
……はずなのに、どうして。
バンちゃんを見ていると、心臓は次第に落ち着いていく。
「萌奈ちゃん……いや、“天使”」
耳を、疑った。
「君も、俺を知ってるはずだ」
「え……?」
私の右手を取って、バンちゃんは手の甲にそっとキスをする。
そして、いたずらっ子みたいな顔して、笑った。
「……ばん、ちゃ、」
「俺は、“悪魔”だよ」
秘めていた正体に、微熱が伝染する。
真っ白な衣装が、赤黒く染まって見えた。