絶対領域
いやでもそんなまさか。
悶々と思考回路を巡らせていると。
正面からスプーンが迫ってきて、私の口の中に放り込まれた。
「んっ!?」
「そう身構えずともよい」
……あ、バニラアイスだ。
甘味がとろけて、広がっていく。
芽生え始めていた緊張感が、一瞬で消えていった。
「言ったであろう?我は、ユーを知るためにトーキングしたいのだ、と」
そっか。
……そう、か。
私の正体も“あの時”の全貌も、知らないから。
だから、知ろうとしてる。
知ろうと、してくれてる。
「我が唯一、ユーについてはっきりわかっているのは、緋織氏の“特別”であることだけだ」
「……あはは、すごいこと知ってるね」
肯定も否定もしない。
秘密は知らないのに、オリとの関係の名前を知ってるのが、なんだかちょっぴりおかしい。
特別。
バニラアイスより甘い響き。
だけど、なんでかな。
たまらなく泣きたくなるの。
「……本人から、聞いたの?」
「いいや?」
「それも、汲み取ったんだ?」
「イエス。ダダ洩れていて、わかりやすかったぞ」
きゅぅ、と心臓が苦しくなる。
もしも、それが真実だとしたら。
オリの“特別”は、今も私?
……ううん、この際、真偽なんかどうだっていいや。
過去形でもいいよ。
なんだっていい。
都合よく期待することにする。