絶対領域
オウサマのピアスをじゃらつかせるそよ風は、やっぱり冷たい。
2人が角を曲がった時には、指先が白くなっていた。
「……そろそろあっちも片付いたかな?」
1本奥の道のほうを眺める。
四方八方から車やバイクの音が聞こえてきて、状況を把握できない。
そもそもこっちの道に来ちゃうと、あっちの道の声はあんまり聞こえないもんなぁ。
「様子を窺ってみようっと」
それが手っ取り早い。
まだやかましいようだったら、またこっちに逃げればいい。
軽い気持ちで路地に戻ろうとした。
次の瞬間。
「あの女を狙え!」
坂道の方向から、かすかに反響する。
聞き覚えのある声質。
え……?
今の、って、もしかして……!
不穏な予感に駆られるがまま、後ろを向きかけた刹那。
ブオオオン!!
エンジン音を盛大にかき鳴らしながら、1台のバイクがすぐ真横を通り過ぎた。
バイクの疾走感に、咄嗟に後ずさる。
「った……!」
何かにグイッと引かれて、転倒してしまった。
お尻をさすりつつ、立ち上がる。
「危ないなぁ。距離感、おかしいんじゃ……」
って、あれ?
カバン、どこいった?