絶対領域
裏切り者。
聞きたくなかった。
嘘だと思いたかった。
信じたくはないけれど、その線が一番可能性が高いのだ。
下っ端たちが、幹部メンバーの交流を完全に把握するのは難しい。
だからといって、簡単に噂を信じるとは考えにくい。
属しているグループの内容なら特に、だ。
……でも、裏切り者がいるとしたら?
暴走族内、つまり仲間うちで拡散された噂なら、話は違う。
「この目で見たんだ」「本人から聞いたんだ」と仲間に話されたら、少しは納得してしまうものだ。
その噂をきっかけに、神亀と双雷の下っ端がお互いに警戒し合っていたら、些細なことでも触発され、喧嘩が起きやすくなる。
現に今、一触即発な状況だ。
このまま放っておけば、双雷と神亀の存続が危ない。
紅組がこれ以上何かしてくる前に、解決しなければ。
「……私が、なんとかする」
『え?』
「“天使”として、対立を止める!」
これが私の守り方。
こうするしか、ない。
『天使としてって……一人でやる気?』
「一人じゃなきゃ、いけないの」
『一人でどうにかできる問題じゃない!』
急に声を荒げられ、思わず携帯を耳から離した。