絶対領域
携帯の画面に表示された時間は、午前1時を超えていた。
冷えた空気に触れる鼻先が、桃色に染まる。
「家に帰らなくちゃ」
真っ暗な歩道に、浮き出る街灯。
ぼんやりと月影をほのめかす。
履き慣れた靴には、ちょうどいい。
青白い星明りは、手招きする。
あの常闇の檻へ。
満ち足りた月光さえ、吸い寄せられる。
人工的な明かりで飾り立てられた繁華街を避けながら、帰路を進んでいく。
昼間は見慣れた景色でも、夜はどことなく雰囲気が変わっていて、しんみりする。
「あ、ここって……」
信号を渡って少し歩いた地点。
学校の通学路でもある道の途中に在る、寂れた公園。
昔ここでよく、せーちゃんと遊んだっけ。
「懐かしいな」
思い出に浸っていたら、無意識のうちに公園に一歩踏み込んでいた。
当然ながら、公園で遊んでいる子どもの姿は見当たらない。
……そうだ、ここから。
この場所で、始まった。
“あの時”の逃亡生活が。
オリとの時間が。
たった3年前の出来事なのに、随分遠い日のように感じる。
出会いも別れも、ここだった。
私にとってこの公園は、始まりと終わりの場所。