絶対領域
私には、非力を嘆くしかできないの?
本当に弱点のまま、オリに守られ続けるの?
『挑発じゃねぇよ。褒めてんだよ』
『は?』
『仁池の奴を死なせておいて、平気な顔で女と逃げてさ。お前が仁池を殺したも同然なのに』
『……っ、』
嘲笑を浮かべて皮肉る男に、オリは生唾を呑み込んだ。
オリの指先から徐々に温もりが抜けていき、冷えた手がほどけかける。
オリが、殺した?
どういう意味?
知らないことがありすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
『いや~、俺には無理だわ』
だけど、わかることだってある。
それは、入れ墨の男がオリをわざと苦しめているということ。
『お前がそんな非道な奴だったとはな。仁池が生きてたら、さぞ悲しんだだろうよ』
高笑いしながら、隠し持っていたナイフを2つ手に取った。
……やだ、やめて。
傷の癒えていないオリを、これ以上傷つけないで。
真実なんか関係ない。
人殺しだって何だって、私はオリの味方でいたい。
私もオリの盾で在りたい。
頭よりも先に、体が動いていた。
オリの背中を飛び出して、逆に正面に立ちはだかる。
隠れたほうが賢明なのかもしれないけれど、弱さを言い訳にしてる暇があったら、嫌いな苦痛を我慢して戦うよ。
私だって、戦えるんだ。
『オリを傷つけたら、許さない!』
私にできる、精一杯の威嚇。
バレバレの虚勢だと自覚してる。
――それでも古傷ごと、仕合わせになりたがった。