絶対領域
・緋織side
両親が、殺された。
仁池のおじさんにそう告げられた時、初めて自分の世界が普通じゃないことに気がついた。
――まだ、たった数か月前のことだ。
『オリを傷つけたら、許さない!』
いつの間にか離れていた、小さな手。
華奢な背中が、目の前にどんと構えられた。
……なんで。
『おうおう、威勢がいいなぁ、お嬢ちゃん。だがな、傷つけられたのはこっちなんだよ。たかが下っ端ごときに脱走されたとバレちゃ、面目が潰れちまうんでね』
『どうでもいいよ』
なんで、萌奈は。
『あんたたちの事情なんか、知ったこっちゃない。私は、私の大切な人を守りたいだけ』
『自分勝手なガキだな』
『面目ばっか気にするオトナよりマシでしょ』
『年長者に生意気な口を利くのはやめたほうがいいぜ?お嬢ちゃんのためにもな』
この男が言ったこと、聞いてただろ?
そいつの言う通りだよ。
俺は唯一の味方を犠牲にした、最低で、非道な人間だ。
なのに、なんで。
萌奈はこんな俺を守ろうとするんだよ。
ひどく汚れた俺とまだ、逃げてくれるのか……?
『……もう一度言う。オリを傷つけたら、許さない!!』
張り上げられた宣言とは打って変わって、大きく広げられた両腕は小刻みに震えていた。
強がっているんだ。