絶対領域
なんて女だ。
年下のくせして、無茶して。
つい最近まで、俺みたいな奴とは関わりのなかった日常を過ごしていたとは想像できないくらい、俺よりもずっと勇ましい。
俺の盾になんかなる必要ないのに。
……じゃあ、俺は?
男の俺が、萌奈より強い俺が。
こんな風に守られっぱなしでいいのか?
……愚問だ。
『許す許さないはご自由に。どうせどっちも殺すし』
ニヤリと不敵に口角を上げた男が、両手に1つずつ持ったナイフを振り上げた。
やばい……!
『萌奈!』
『へっ!?』
咄嗟に萌奈の右腕を引っ張って、そのまま横抱きした。
俗にいう、お姫様抱っこってやつだったか。……まあ、俗称はどうでもいいか。
びっくりしている萌奈をよそに、2つのナイフが勢いよくこちらに投げられる。
『萌奈、じっとしてろよ』
『う、うん……!』
萌奈を抱きながら、接近してくるナイフを一瞥する。
片足を素早く振り回し、刃の表面を蹴り飛ばした。
ナイフは2つとも軌道を変えて、路地の壁に刺さった。
『幹部候補と噂された実力は本物だったってわけか』
『無駄口叩いてんじゃねぇよ』
『なっ、……うぁっ!』
入れ墨がチラチラ見える男の首めがけて、回し蹴りを食らわせる。
倒れた隙に、入り組んだ路地の奥へ逃げ去った。