絶対領域
「お、俺、は……っ」
辛そうに、歯がゆそうに。
せーちゃんは俯いたっきり何も言わない。
「お前の言う証拠は、証拠って言わねぇよ!偶然かもしんねぇだろ!?」
まるで自分にそう言い聞かせてるみたいに、叫び散らす。
手にしたまんまのヘルメットを、思い切り強く投げてきた。
ソレは私の顔横すれすれを横切って。
ちょうど真後ろ。
受け止めた音が、綺麗に鳴った。
「じゃあ俺からもいい?」
ヘルメットを脇に抱えて、バンちゃんが一歩前に躍り出る。
「万……お前……」
「悪い、あずき。慎士や悠也、世奈も、秘密にしててごめん。ほんとは俺、全部知ってたんだ。萌奈ちゃんと一緒に、皆の盾になろうって、隠してた」
「……それが、今のお前の、正義だったのか?」
「たぶん、ね」
狼狽しながらも少しずつ受け入れていくあず兄に、バンちゃんは軽やかにヘルメットを投げ渡した。
そして、私の代わりに、これまで隠してきた真相を語ってくれた。
新人いびりをきっかけに、紅組が関わっていることを知ったこと。
情報操作をされ、双雷と神亀を敵対関係にさせていること。
下っ端を洗脳してる、裏切り者が存在していること。
それがランちゃんであろうこと。
無意味な決闘を食い止めるべく、私が独りで乗り込んだこと。
そうするしか他に方法がなかったこと。
私を気遣ったのか、私の正体や過去に関する内容は一切話されなかった。
淡々と把握している情報を述べていく。