絶対領域
泣き虫な純情
したり顔のバンちゃんを凝視すること、30秒。
ランちゃんは噴き出した。
ひとしきり笑い終えた後。
ゆらり、上げられた顔つきは、先ほどとは全然違くて。
生々しい冷気を、纏っていた。
「ああ、そうだな。それは、証拠として認めてやるよ」
これが、中学生に出せる殺気……?
何もかもくすんでしまったみたいに、曇ってる。
なんて寂しそうなの。
「俺の名は、野々塚蘭次郎だ」
花火をした日、ランちゃんは独白した。
『……苗字まで教えちまったら、プライバシー侵害されそうで怖ぇじゃねぇか』
あれは、嘘、だったんでしょ?
「苗字を教えなかったのは、プライバシーなんてちゃちな理由じゃねぇ。悟られないためだ」
脳裏で、火花がしぼむ。
0.1パーセントの希望が、散る。
心のどこかで、裏切り者じゃないことを期待してたんだけどな。
泡沫の期待だった。
「俺が野々塚緋織の腹違いの弟であり、紅組の下っ端であることを」
ランちゃんが元から強く、幹部に抜擢された異例も、それなら頷ける。
でも、やっぱり、易々とは咀嚼できない。
だって……。
「俺の、弟……?」
戸惑いを孕んだ藍色の瞳。
オウサマがいとこの存在を知らなかったように、オリも義弟の存在を知らなかったんだ。
「ちょ、ちょっと待った!!」