絶対領域
凍えそうなほど張りつめていた空気に、亀裂が入る。
唐突に声を上げたせーちゃんに、皆の視線が集まった。
「蘭次郎が裏切り者で、紅組で、緋織の義弟ってことも全然わっかんねぇけどさ、緋織も紅組だったってどういうことだよ!?」
「僕もそれ気になった~。それ本当なのぉ?」
一斉の皆の視線が、階段側へ移る。
オリはおもむろに腰を上げ、何か言いたげに私を見つめた。
いいよ。
大丈夫だよ。
皆になら、話しても、平気だよ。
優しく微笑んで、こくんと1回頷いてみせる。
長い前髪が左目の下にあるほくろまで陰らせていたけれど、徐々に影が淡くなっていく。
あぁ、よく見える。
瞳の奥で輝く、灯【トモシビ】が。
「俺も紅組に属してたのは事実だ。だが、3年前に紅組を脱走してる」
「3年前……脱走……?」
引っかかりを覚えたようで、次第にうっすらざわつき出す。
紅組の脱走者。
当時、噂になっていたから、聞いたことのある人は少なくないだろう。
「オリが逃げてる途中で、私はオリと出会ったの」
脈打つ音が、ノイズを上回る。
横目に、目を閉じてるバンちゃんとオウサマが入り込んだ。
2人して同じ仕草と恰好をしてて、なんだかおかしくて。
変に緊張してるのが、バカらしく思えてきた。