絶対領域




「違ぇだろ、世奈」


「あず、にぃ……」



もし、オリを咎めたら、鎮めるのはバンちゃんだろうな。

そう推測していた。



あず兄も、せーちゃんと同じかそれ以上に錯乱して、事実を拒んでしまいたいだろうに。


どうして。



コドモみたく泣きべそをかく私を一瞥すると、あず兄はオトナらしく仕方なさそうに目を細めた。




「あ、あずき兄さん……なんで、んなこと言えるんだよ!!」


「世奈、落ち着け」


「落ち着けるかよ!今の聞いただろ!?あいつが姉ちゃんをどっかに行かせたんだ!俺たちの前からいなくならせたんだ!」



鼓膜の裏側で、ガンガン轟く。

鈍い音色と共に、心拍数を乱す。



オルゴールは、砕け散ってもまだ、私たちを呪っている。



「今も、姉ちゃんを、泣かせてるんだ……!」



オリが密かに拳をぎゅっと強く握りしめたのを、誰も気づけなかった。




「緋織は元凶じゃない。ただのきっかけだ。元凶は、紅組だろ。はき違えんな」


「でも……っ」


「お前こそちゃんと見ろ、ちゃんと聞け」



ヘルメットを一旦しん兄に預け、黄緑に染まる髪をポンポンと数回撫でる。


そのまま覗き込むように、背中を丸めた。



「萌奈が言ってたろ?緋織を守りてぇ、って。その気持ちは、俺たちと同じだ。わかってやれ。花火をした日に、萌奈に似たようなこと言われただろ?」



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