絶対領域
あず兄、覚えてたんだ。
『2人にもいるように、私にも守りたい人がいるの!2人も同じなんだから、文句言う筋合いない!』
オリへの想いを譲れなくて、つい強気に論破しちゃったんだっけ。
懐かしい。
共有した思い出のひとつひとつが、今の私たちに繋がってる。
「そう言うあずき兄さんは、わかってあげられるのかよ!簡単に受け入れられんのかよ!あずき兄さんにとって、“あの時”の辛さはその程度だったのかよ!!」
「俺だって、聖人でもなけりゃ善人でもねぇ。受け入れることも、“あの時”の辛さを忘れることも、今すぐにはできねぇよ」
だけどな、と。
ヘーゼル色の表面に反射する光を確かめるみたいに、視線を逸らすことなく続けた。
「そんな風に怒鳴り散らしたり責めたりすんのは、今じゃねぇことくらいわかる。そういうのは帰ってからにしようぜ」
「帰ってから……?」
「そうだ。全部ちゃんと整理して、理解して、片付いたら、駄々こねたり説教したりすればいいんだよ」
「……片付いてから言っても、後の祭りだろ?意味ねぇじゃん!」
「後の祭りなんか今更だろ。今更だって意味なくたって、ぶつけたいならぶつければいい。……ただ、今は、萌奈や緋織や蘭次郎の意思や気持ちを知るんだ。知らなきゃなんねぇんだ。言いたいこと言うのはその後だ」