絶対領域
「双雷を抜けるってことか……?」
「そんな……俺たちのせいでもあるのに……」
「辞めさせないでください、総長!」
「蘭次郎さんが抜けんなら、俺も責任取って抜けます!」
双雷の下っ端が、次々に声を上げ出した。
次第に神亀の下っ端も、謝罪や自責を発する。
「バカじゃねぇの、あいつら。利用されてたっつーのに……」
「バカだから、ランちゃんの嘘を信じたり、仲間のために愚行したりできたんだよ」
皆、知ってるんだ。
本当のランちゃんを。
仲間の大切さを。
洋館中を震撼させるくらい。
「違ぇよ」
「……え?」
あふれ返った声の中に、ポツリ。
クリアに馴染んだのは、凛とした低音。
「オリ……?」
だんだんと静寂に包まれていく。
「裏切りじゃねぇだろ」
「オリ、何言って……」
「さっき蘭次郎が言ってただろ。これは兄弟喧嘩だって」
あ。
今、蘭次郎、って。
呼んだ。
『例えば、緋織氏は皆を苗字で呼んでいるが、ユーのことだけ名前で呼ぶのだ』
以前、オウサマがそう言っていた。
苗字を知らなかったランちゃんのことをどう呼んでいたのかは知らないが、おそらく名前呼びは今が初めてだ。
だって、ランちゃん、びっくりしてる。