絶対領域
トン、と。
ランちゃんの胸に、軽く拳を当てた。
「来いよ」
挑戦的にほころんだ表情は、どこまでも優しい。
「兄弟喧嘩に、決着つけようぜ」
ランちゃんはためらって、俯く。
しかし、がら空きのふところを容赦なく殴られかけ、咄嗟に後ずさった。
「ちょ、今のずる……」
「喧嘩中にボーッとしてるのが悪い」
まったく。オリってば。
意地悪なんだから。
「俺を地獄に叩き落としてぇんなら、周りを巻き込んだり他人に任せたりしてねぇで、お前自身が本気で来い」
ランちゃんの面構えが、豹変した。
微熱に浮かされたように奮い立ち、床を蹴る。
「うおおおおっ!!」
全力で吠えながら、渾身の右ストレートを食らわせる。
華麗にかわされても、次の攻撃を颯爽と仕掛けていく。
2人とも紅組に属していただけあって、戦い方が似てる。
だけど、オリのほうが強くて。
ランちゃんは悔しがって。
楽しそうだった。
「ムカつくんだよ!ウザいんだよ!」
素早いパンチも、キレのいいキックも。
オリには届かない。
「自分だけ幸せになってんじゃねぇよ!」
オリは最初に隙を突いただけで、あとは攻撃をいなしてる。
まるで反抗期の弟をたしなめてる兄みたい。