絶対領域
ダイニングテーブルに朝食を並べていく。
甘い匂い、ちょっと焦げた苦い匂い、コーヒーの匂い、お線香の匂い、柑橘系の香水の匂い……。
どんなに混ざり合ったって、決して濁らない。
爽やかな朝の匂いには、負けてしまうんだ。
家族そろって「いただきます」と食卓を囲う。
円堂家の朝は慌ただしいというよりは、清々しい。
他愛ない会話をしながら、あっという間にご飯を食べ終えたあーくんは、
「ごちそうさま!」
と、食器を運ぶと、気だるそうに部屋をあとにする。
夏休み明け、最初の登校日。
あくびが出るのもわかる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
扉からひょっこり顔だけ覗かせてそれだけ告げると、家を出て行った。
「あーくんって、ほんとみーくんに似てるよね」
「え、そう?似てる?」
「似てるよ」
「どこが?」
「全部!」
首を傾げたみーくんは、あーくんが淹れてくれたアイスコーヒーを一口飲む。
美味しい、と言わんばかりに唇の端がほころんだ。
やっぱり似てるよ。
優しい夫と子どもをもって、私は幸せ者だなぁ。