絶対領域



ダイニングテーブルに朝食を並べていく。



甘い匂い、ちょっと焦げた苦い匂い、コーヒーの匂い、お線香の匂い、柑橘系の香水の匂い……。


どんなに混ざり合ったって、決して濁らない。


爽やかな朝の匂いには、負けてしまうんだ。



家族そろって「いただきます」と食卓を囲う。

円堂家の朝は慌ただしいというよりは、清々しい。



他愛ない会話をしながら、あっという間にご飯を食べ終えたあーくんは、



「ごちそうさま!」



と、食器を運ぶと、気だるそうに部屋をあとにする。


夏休み明け、最初の登校日。

あくびが出るのもわかる。



「いってきます」


「いってらっしゃい」



扉からひょっこり顔だけ覗かせてそれだけ告げると、家を出て行った。




「あーくんって、ほんとみーくんに似てるよね」


「え、そう?似てる?」


「似てるよ」


「どこが?」


「全部!」




首を傾げたみーくんは、あーくんが淹れてくれたアイスコーヒーを一口飲む。


美味しい、と言わんばかりに唇の端がほころんだ。



やっぱり似てるよ。

優しい夫と子どもをもって、私は幸せ者だなぁ。



< 621 / 627 >

この作品をシェア

pagetop