絶対領域
少しして、みーくんも朝ごはんを平らげ、食器を下げる。
私はみーくんのカバンを持って、玄関まで送った。
みーくんも出勤の時間だ。
「はい、カバン」
「ん、ありがとう」
身なりの最終確認は、妻の役目。
やや緩めなネクタイをしっかり締めてあげる。
「いってらっしゃい」
チュッ、と短めのキスをするのも、毎朝のお約束。
今ではすっかり慣れてしまったけど、みーくんのわがままで始めた当初は恥ずかしくてたまらなかった。
みーくんは扉を開けて、顔だけ振り返る。
「萌奈、愛してるよ」
「うん。私も愛してるよ、みーくん」
お互いに確認し合うように微笑み合う。
そして、何度も、恋に落ちるんだ。
「いってきます」
気づけば追い越されていた身長も、大きくなった背中も、着慣れたスーツも。
毎日新鮮に見えてるのはなんでかな。
ときめき、とは少し違う。
けれど、確かに心は高鳴って、嬉しくなる。
もう私は“天使”ではないのに。
“あの時”より純粋で真っ白になってる。