絶対領域
待ち合わせ場所は、ランチするカフェの近く。
そのカフェは繁華街にある。
こうやって道を歩いていると、自然とこっちに行けば神亀のたまり場、あっちに行けば双雷のたまり場って脳が働く。
高校卒業と同時にぱったりと訪れる機会がなくなってしまったのに。
「記憶は、残ってるんだなぁ……」
……あ、あの公園だ。
幼い頃、せーちゃんとよく遊んで。
“あの時”、オリと出会い、別れた場所。
思わず、公園の正面で足を止めた。
ボロボロの木製のベンチの奥には、緑の葉が生い茂っている大きな木が健在だった。
あの桜の木は、今でも、誰かの始まりを見届けているのだろうか。
哀愁のような感情がこみ上げてきた。
……ううん、悲しくなるのは、おかしいね。
ここでのシーンだって、どれもかけがえのない思い出。
全部、全部、今の私を成している。
だから、私は行く。
前へ、前へ。
私が向かうべき先へ。
私はやわく笑みをこぼして、足を進めた。
じわり。
目尻に浮かんだ涙には、気づいていないフリをした。
たぶん、真っ青な空に目が沁みたせいだ。
それで、いいんだ。