絶対領域
ギィィ、と軋みながら開く。
重厚な扉の隙間から。
「ここから先は、俺らの領域だ」
聞き覚えのある、ちょっと高めの男の子の声。
「無断で踏み込んでくんな」
一歩退いてしまったのは、威嚇を恐れたとか逃げたくなったとか、そんなんじゃなくて。
予想外すぎて驚いたからだ。
「な、な、なんで……!?」
扉が開ききり、お互いの姿をあらわにする。
おそらく、あちらの目には、私の間抜けな表情がはっきり焼き付いていることだろう。
「あれ?」
鋭く尖っていた眼光は、みるみる丸くなって。
どす黒くまき散らしていた殺気は、一瞬で澄み渡った。
「この前の女の子じゃん。久しぶり」
見間違いだろうか。
私の目の前に、ここにいるはずのない男の子がいる。
1週間前、無理やり不良たちとの鬼ごっこに付き合わされた、あの学ランの男の子が。
「また会えて嬉しいよ」
にっこり微笑まれても、私はどうすることもできず、口をパクパク開閉させるだけだった。
ど、どうなってるの?
どうすればいいの!?
――あぁ、なぜ運命は、いたずらに私を弄ぶのだろうか。