絶対領域
「ごめん、萌奈ちゃん。抑えらんなかった」
「気にしないで。これでも持ちこたえたほうだし」
バンちゃんが、後頭部に手を回しながら、口惜しげに私の隣に立った。
バンちゃんの背後には、せーちゃんもいる。
片方の手では、相変わらずせーちゃんの口をしっかり覆っていた。
「俺は、素野万。高2。神亀の副総長だ」
相手が双雷と知っても、余裕綽々としている。
初めからこうなることを予知していたように。
「万、だっけ?君が副総長なんだ。てっきりそこのメガネくんかと思ってた」
「よく言われる。でも、こっちにも事情があってね」
「ふーん?」
翠くんが興味深そうに、バンちゃんとしん兄を見比べる。
しん兄はメガネを中指でクイッと持ち上げるだけだった。
「そっちの副総長は?」
「我を呼んだかい?」
バンちゃんの呼びかけに、伸びのいい透き通った声が返ってくる。
……わ、我?
今、確かに、一人称をそう言ったよね?
“あなた”の横で傍観していた、長髪の男の子が、意気揚々と前に出てきた。