絶対領域
柔らかな黒い髪が、指先をなぞる。
毛先から上にたどっていけば、そこにも、見知らぬ屍。
口の端から、学ランの下のお腹から、真っ赤な血を垂れ流して。
薄く開いた唇の隙間から、か細く呼吸をして。
私のすぐ後ろで倒れている、黒髪の男の子。
「だ、れ……?」
わからない。
わからない、のに。
無意識だった。
黒い髪の毛が絡んでいた指先を、そっと男の子の頬へと伸ばしていた。
だが。
「触るな!!」
突然張り上げられた怒声に、すぐさま手を引っ込める。
声の主のほうへ視線を移せば、せーちゃんと同じ背格好の男の子がいた。
緑っぽい色をした、オールバックの髪型。
まるで、不良みたいだ。
「……あなたは、誰?」
「は?」
「この人が誰か知っているの?」