絶対領域
蘭次郎だから……あだ名は『ランちゃん』にしよう。
はい、決定。
「あと神亀で自己紹介してないのは、ゆーちゃんだけだよね」
そういえば、ここに来る前はせーちゃんとぎゃーぎゃー口論していたのに、今は全然ゆーちゃんの声を聞いていない。
どうしたんだろう。
腑に落ちないまま、ゆーちゃんのほうを振り向く。
「……ゆ、ゆーちゃん?」
ゆーちゃんは一点をじぃーっと、そりゃもう瞬きもしてないんじゃないかってくらい、ただひらすらに凝視していた。
意味深に陰った、微笑み付きで。
「おい、悠也!」
「ふふふ」
「……ダメだ、完全に自分の世界に入り込んでやがる」
あず兄が試しにゆーちゃんの顔の前で手を振ってみても、効果はなし。
むしろ、薄気味悪い笑い声が返ってきた。
こんなゆーちゃん、初めて見た。
なんだか不気味。
洋館に棲んでる幽霊にでも憑りつかれた?
「どこを見てるんだ?」
しん兄の疑問の答えが気になって、ゆーちゃんの視線をゆっくりたどってみた。