絶対領域
執着心を織り交ぜた、危うい声音。
気弱そうな男の子が恐れるのも無理はない。
今のゆーくんは、ちょっと、タガが外れてる。
「ねぇ、ゆーくん」
「ん?なに、モエモエ~」
あ。
通常運転に戻った。
ゆーくんだけが呼ぶ『モエモエ』というあだ名が、やけに浮ついて聞こえたのは、ゆーくんの機嫌がすこぶるいい印だろう。
「幼なじみとの談笑は置いといて、とりあえず自己紹介しちゃってよ」
「あっ、そっか、そうだねぇ。忘れてたぁ」
とぼけたようにはにかんだ後、大きく片手を上げてアピールした。
「僕、大宮悠也。高校1年生の15歳。神亀の幹部をやってまーす!」
今までの誰より、ハイテンションだな。
幼なじみと会えたのがそれほど嬉しかったらしい。
ゆーちゃんに続いて、気弱そうな男の子も口を開いた。
「ぼ、僕は、瀬戸川 紫【セトガワ ユカリ】といいます。ユウと同じく高校1年、です。えっと……そ、双雷の幹部を任されています」
傷みのなさそうな、アプリコットオレンジの髪。
前髪はセンターで分けていて、右耳に1つピアスをしている。
容姿だけでいえば、好青年、という言葉そのものだ。
ただ中身は、少しなよなよして、頼りなさそうだけれど。
彼にこそ『ゆかりん』という可愛いあだ名がぴったりだ。