Cosmetics
立川 ほまれの好きなブランドはYves Saint Laurent。
好きな食べ物は、チョコレートがたっぷりかかったドーナツ。
そして好きな男は木村 海音。
一度好きになるとなかなか熱が冷めないのがほまれの特徴だ。片思いも五年も経てば筋金入りのストーカーである。
出会ったのは入社したデザイン会社。彼の作ったポスターに一目惚れしたほまれは、作った本人にも一目惚れ。
デートに誘う勇気もなく、気が付けば彼の情報ばかり詳しくなって、会社であった彼の一挙一動を友人に報告する日々である。
「本当飽きないわよね」
友人である葉山 麗奈は中学時代からの幼馴染だ。
彼女は二十代前半に、高学歴、高収入、イケメンとあっさり結婚し、女性なら憧れる港区女子の仲間入りを果たした。元々家が金持ちだった彼女からしたら、生活水準はあまり変わっていないようで、「大したことではない」と言い放っている。
その日も彼の笑った顔が可愛かっただとか、コーヒーの飲み方がかっこよかっただとかそんな話をするためだけに、カフェに人妻を呼び出していた。
「だって、飽きないよ。かっこいいもん」
「年齢考えて?もう二十八。適齢期なのよ、私たちは」
「麗奈は結婚したじゃん」
「ほまれはまだでしょ?」
「う……それを言われると」
冷静な指摘をされるのは苦手だ。夢見て追いかけるだけの恋愛を許してもらえる年齢はとうに過ぎてしまった。
相手が芸能人やアニメの世界なら周りも許してくれるが、生身の現実に手が届く範囲にいる男をターゲットにした瞬間、それは許されないと判断をされてしまうらしい。
「とにかく、早くデートに誘っていけるかそうでないか判断しないと。もう二十八なんだよ」