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 麗奈に言われて行動を起こそうとしてみるが、やはり会社に向かうといつも通り遠目から彼のことを追いかけてしまう。

 自分が彼の隣に立って、楽しくおしゃべりしている姿を想像するが、あまりしっかりとイメージができない。いや話すなんて無理だ。

 勇気を出そうと、お気に入りのリップを塗ってきた。朱色の唇を噛み締めてしまったせいか、鏡に映った時に、歯に色が移っていた。

「ああ!もう!」

 独り言を呟いてベリーショートにしたばかりの栗色の髪の毛を掻き毟る。麗奈と別れた後、むしゃくしゃして髪の毛を切りに行ったのだ。

小さい顔にはそばかすがたくさん散りばめられているほまれの顔に、新しい髪型はよく似合った。

「あれ?立川さん髪切った?」

 突然背後から声がして、振り返ると木村海音が立っていた。

「あ……あの……えっと」

「似合ってるね」

「はい……ありがとうございます」

 顔が真っ赤になっている自信がある。ああ、こんな近くで笑いかけられている。

 じゃあ、と海音がその場を去って行こうとする。

「とにかく、早くデートに誘っていけるかそうでないか判断しないと。もう二十八なんだよ」

 麗奈の言葉が脳裏に過ぎった。

「あ、あの!」

 裏返った声が出た。

ああ、恥ずかしい。

 穴があったら入ってしまいたい。
 
 こんな声を彼に聞かせてしまっただなんて、何たる不覚。

「どうした?」

 優しく笑って振り返ってくれる。素敵すぎて失神してしまいそうだ。

「よかったら、ご、ご……飯に行きませんか?」 

 一生分の勇気を使ったと思った。

「いいよ。今日の業務終わった後とかどうかな?」

 神様がいるとしたら、世界中のありがとうの言葉を使っても感謝し尽くせない。
 
 彼と、彼と一緒にご飯を食べる。

 この五年間、まともに話すらしてこなかったのに。

「い……いいんですか?」

「うん。いいよ。立川さんとあんまり話したことなかったし、話してみたかったしさ」

「う、嬉しいです」

「そんなに喜んでもらえてよかったよ。ちょっと遠いけど、銀座にある地中海料理なんかどうかな?一度行ってみたいなと思ってたんだけど、デートの機会があんまりなくて」

 デートだと思ってくれてるんだ。

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