Cosmetics
 
 その日は仕事が手につかなかった。
 
 頭の中で、海音のことを考えては打ち消し、考えては打ち消した。

 ずっと好きだった男とデートできるなんて、一体誰が予想できただろう。

 こんなことなら、もっと派手な下着をつけてくるんだった。

 短い頭をくしゃっと握って、デートの後のことを想像する。

 海音は、女を抱く時にどのように抱くのだろう。

 きっと、情熱的なデザインを書く海音のことだ。激しく、情熱的な一夜をプレゼントしてくれるに違いない。

 あんまりにほまれが仕事に手がついていないため、上司に指摘をされてしまったことは言うまでもない。

 定刻が過ぎ、飛び去るようにほまれは職場を後にした。

 ビルを飛び出すと、海音から連絡が入った。

「現地で待ち合わせね。東急プラザのTWGの紅茶売り場の前で」

 早速、場所を検索して、電車に飛び乗る。

 心臓がバクバクいって止まらなかった。本当に、好きな人と一緒にデートできるのだと思うと、夢見心地であっても仕方がない。

 ほまれがTWGに到着して、二十分後に海音は到着した。

「じゃあ、行こっか」

 海音があまりにも自然に手を差し出してきたので、ほまれは一瞬戸惑ってしまった。

「えっと……」

「嫌かな?」

「いやじゃ……ないです」

 顔が真っ赤になっているのを感じた。

 手、汗ばんでないかな。意外に、手小さいんだな。私の手、ちょっとゴツゴツしてるんだけど、嫌じゃないかな。

 エレベーターの中で密着すると、香水のいい香りがした。
< 13 / 36 >

この作品をシェア

pagetop