Cosmetics
時刻は十二時を指していた。どうやら三十分近く乳くりあっていたらしい。
ほまれは、リップを塗り直した。
帰ってしまっているかもしれないと思うと、はみ出ているかもしれないが、気にしている場合ではない。
「あ!」
ビルの前に座り込んで、タバコをふかしているヒビキがいたので思わず声を出してしまった。
「おっそ」
初対面なのにも関わらず、まるで古くからの友人のようにヒビキは、ほまれに声をかけた。
「まさか、待ってた……」
「だって、絶対来ると思ったから」
タバコを地面に投げ捨て、ヒビキは踏み潰した。そして、それを灰殻入れに拾って入れた。
ほまれは、目の前に立っている男をじっと見つめた。
「ねえ、変なことを聞くんだけど」
「なーに?」
「小さくない?」
ヒビキはぶっと吹き出して、大きな声で笑い声をあげた。
「単刀直入すぎやしませんか?お姉さん。あの男が短小だったの?」
「いや、そういうわけじゃ」
あまりの最低な質問をしてしまったことに、ほまれは自己嫌悪に陥った。
確かに、初対面の相手に聞くような話ではない。
「お姉さん、変わってるって言われるでしょ」
「すいません。取り消します」
小さくなるほまれの頬をヒビキの大きな手が包んだ。両手に包み込まれた頬が熱いのは、気温が高いからではなさそうだ。
「たぶん、大満足できると思うよ」
タバコの香りがする。
きっと、きっとだけれど、あたしはこの人を次に好きになる。そして、この人もきっとあたしのことを好きになる。
変な予感が、ほまれを強くさせた。
結婚なんて、絶対考えなさそうな二人だけど。相性は悪くなさそうだ。
麗奈にばれたら叱られてしまうかもしれないが、追いかけるだけの恋じゃないならいいよね。きっと。
「このまま朝までコースと、一旦眠りについてから明け方で少しと、どっちがいい?」
コンビニで買ったらしいコーヒーを飲みながら、ヒビキはほまれに尋ねた。
「我慢できるなら、一回寝てもいいよ」
この後、ほまれが生まれて初めてだと知ったヒビキが、驚いて思わず彼女にしてしまったというのは、また別のお話。