Cosmetics

 生まれ故郷は東京の下町で、小さな工場がたくさんある街に小山 明日香(こやま あすか)は育った。

 親は小さな下請け工場の社長で、生きていく分には生活に困ったためしはない。容姿にも些か恵まれた為か、寄ってくる男は両手に余るほどで、中学生の頃から彼氏が途切れたこともなかった。

 実家暮らしをしているのは、貯金が出来るからという理由は名目上で貯金など遊びに使ってしまって口座は空っぽだ。

 一昨日別れた彼氏に買ってもらったブランド物のバッグを、ベッドの上に放り投げて明日香はため息をついた。

 昔は勉強机として使用していた机の上には、syuuuemuraのコスメが沢山並んでいる。

 飽きっぽい明日香ではあるが、このブランドだけは十数年愛用している。

 特に、赤紫色のリップはもう何本目かわからない。

 男も同じように、ずっと愛し続けられればいいのだが。

 どいつもこいつも正直つまらない。

 親はそろそろ身を固めて結婚しろと言うけれど、それは明日香自身の為ではなく、小さな工場の後継が欲しいだけだ。

 今更になって反抗するつもりは毛頭ないけれども、愛のない結婚はしたくないと思う。

 かと言って、彼氏になる人間と毎回劇的な恋をしている訳でもなく、なんとなく関係が始まり、なんとなく終わる。

 身体だけの関係だけの時もある。
 
 終わりに泣いたこともないし、出会ってよかったと思ったこともない。
 
 ただ退屈な毎日の延長線上にある、少しの刺激。

 それだけだった。
 
 お見合い結婚などが最近は流行っているらしいので、この際乗じてみるのも悪くないかもしれないが、万が一自分が飽きてしまったらと想像すると、まだ独身でもいいかと思ってしまう。

「やっぱり、愛のある結婚が一番だよな、うん」

 行動とは裏腹に、明日香はロマンチストなのである。

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