Cosmetics
時間はあったものの、あまりデートに行きたいという気分になれなくて、直前になってキャンセルをしてしまった。
ものすごく怒っている相手のメッセージを既読をつけただけで、読みはしない。読んだところで体力が持ってかれるだけなので、画面上から削除をした。
SNS上でのやり取りが増えた中、人間関係も希薄になりつつあるというより、大事にしなくても代わりがすぐ見つかってしまうといった状態がいけないのかもしれない。
一番の問題点は、それに対して明日香が罪悪感を抱いていないということになるが。
デートをキャンセルしたからといって、家に帰る気にもならずブラブラしていると、学生たちの集団とすれ違った。
「おい、相模。お前、今日は金持ってんだろ」
おいおい。今時、カツアゲ?
明日香は振り返り、学生たちの様子を見た。
数人で一人を囲み、金を出せと言っている。見た目はみんな大人しそうなのに、学生っていうのは見えないカーストを作るのだけはうまいからな。
「無理だよ」
「ああ?お前、何言ってんの?ちょっと貸してって言ってるだけじゃん。親友だろ?」
「でも、佐々田、前もそう言って返してくれなかったじゃないか。銀行だってなんだって信用が無ければ融資はしないんだよ。まずはこの間貸したお金を返してくれたら、また貸すよ。それに、金を無心してくるやつのことを、僕は親友だなんて思えない」
勇気ある返事ではあるものの、不穏な空気が、明らかに伝わってくる。
言い返された佐々田という青年は、顔を真っ赤にして今にも相模と呼ばれた青年に殴りかかりそうだ。
余計なお世話だと言われてしまうかもしれないが、ちょっとばかりお節介働いてみるか。
明日香は、駆け出して、相模という学生を後ろから抱きしめた。
「ちょっと、私の弟にお金出してって今言ってなかった?」
抱きしめられている相模を始め、学生たちがギョッとした表情になった。
「いや、そんなことは……」
あからさまに狼狽える少年たちに向かって、明日香は相模という少年を抱きかかえたまま「これから家族で、ご飯に行く予定なんだけど、弟解放してもらってもいいかな?」と微笑んだ。