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その日の夕食は、家でカレーを食べた。
家族の団欒も悪くはないけれど、いい年をした娘が日曜日の夜にデートもしないで、ふらふらとといった親の視線が痛い。
そそくさと部屋に戻ると、昴から連絡が入っていた。
「今日は、本当にありがとうございました。御礼ですが、明日の夕方などはどうでしょう?」
まるでデートのお誘いだ。
明日香は一旦躊躇したものの、好奇心の方が勝ってしまい「大丈夫です」とだけ返信した。
次の日、仕事を終えた後、昴青年と彼の最寄の駅で待ち合わせをした。
彼の住んでいる場所は、高級住宅街と呼ばれているところで、下町に住んでいる明日香からすれば別世界だ。
明日香の仕事の終了時間に待ち合わせ時間を合わせていたので、青年は制服ではなく私服だった。
「あんた良いところのおぼっちゃんなんだね」
「親の力です。僕自身はまだまだですよ」
そう言いながらも、並の男よりはエスコートできているあたり、なかなか将来有望だ。
昴が連れてきたのは、雑誌に載っているようなお洒落なカフェだった。
「ここなら、個室の席もあるので御礼をしつつ作戦も立てられるかなと思いまして」
「なるほどね。いいじゃん。楽しみ」
「料理の味はいいですよ」
店に入るとすでに予約をされていたようだった。
昴の言う通り、個室に案内されてメニューを渡される。記載されている金額は、明らかに学生が来るようなところではない。
まあ、お金はこっちも持ってるし、いっか。
万が一のことも考えて、明日香は自分の財布の中の金額を脳裏に蘇らせる。
「明日香さんは、お酒飲みますか?」
ワインリストを差し出して聞いてくる昴を見ると、年齢を詐称しているんじゃないかというほど大人びている。
「あんた……そういうのどこで覚えてくるわけ」
「両親とこういうところに来る機会が多いので、慣れているだけですよ」
淡々と返事をする昴に、そんなもんなのかと疑問を抱きつつもソフトドリンクを頼んだ。一人だけ酔っ払うのはなんだか気が引けたのだ。
料理が運ばれてくるまでの間、他愛のない会話をした。
お互いのことをゆっくり話をしていると、年齢は一回りも離れているのに、妙にウマが合った。
それは、昴青年の育ちがよく精神的に大人びていたことが大きな要因であったものの、お互いがお互いを気に入ったというのも大きかった。
「へえ、で、あんたは将来何になるつもりなの?」
「一つ考えているのは、ちゃんと稼げる大人になることですかね。話すことが好きなので、講演会とかで稼げるといいなと思っています」
「立派だね」
「明日香さんは?」
「今は、しがない事務職だけど、近いうちにん資格とって家業継がないといけないなと思ってる。まあ、親はそんなことより私に結婚して男の後継者がほしいみたいだけどね」
「明日香さんは……彼氏とかいるんですか?」
真顔で昴に尋ねられて、飲んでいたジンジャーエールを吹き出しそうになった。