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「な、なんでよ」
「いや、いたら僕悲しいなと思って」
そんな子犬のような顔で見つめられると、霞んで消えそうな母性が活性化してしまうではないか。
「いないけど、私、あんたよりも一回り年上だよ?」
「それって関係あるんですか?」
ああ、出たよ。若さゆえの無謀さ。今はまっすぐに目の前にいる大人のお姉さんに出会ったから、ちょっと憧れみたいな気持ちになってるだけで絶対数年後には同い年もしくはちょっと年下の女の子と付き合いたくなるから。
という言葉は、彼は今欲しくないんだろうな。
「確かに、関係ないかもしれないけど」
言葉を選んで、明日香は昴をじっと見つめた。
若さゆえだろうか。昴自身が真っ直ぐだからだろうか。熱い眼差しに居心地が悪くなる。
心臓がドキドキと高鳴った。
この気持ちは一体何なのだろう。
「教師ですら見て見ぬふりだった僕のことを、明日香さんが救ってくれた。僕が明日香さんを好きになったことを、ただの少年の憧れと思ってほしくないです」
はっきりと物を言われて、明日香は返答ができなくなる。
「だけど、出会ったばっかりだからさ」
「じゃあ、親交を重ねていけばいいんですよね?今度の土日は空いてます?」
「いや、空いてるけど」
「デートをしましょう。遊園地は好きですか?」
「嫌いじゃないけど」
「ジェットコースターは?」
「嫌いじゃないけど」
「僕のことも嫌いじゃないですよね?」
「嫌いじゃ……ないけど」
「じゃあ、決まりです」
こいつ策士だ。
まんまと昴の策略に乗せられて、遊園地に行くことになってしまった。
「僕、遊園地に行くのものすごく久し振りです。幼稚園の頃に行ったっきり、勉強漬けの日々が始まってしまいましたしね」