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結局断ることもできず、土曜日が来てしまった。
学校で証言するといった話もうやむやだし、どうすればいいのだろうか。
今まで、男性にここまで翻弄されることのなかった明日香は戸惑っていた。
結局、あの日のディナーは昴がお金を出してくれた。
学生が出すような金額ではなかったので、支払おうとした明日香に「じゃあ、遊園地で何かご馳走してください」と言われてしまった。
「明日香さん」
待ち合わせの駅で昴が笑顔で、駆けて来る。
おろしたての新しいシャツを着て、まぶしい笑顔を明日香に向けた。
遊園地に行くこと自体が久しぶりなので、ちょっとワクワクしてしまっている自分に、罪悪感を抱きながらも、楽しんでいる自分がいた。
最近は、彼氏やデートする相手ができたとしても、洒落たレストランでご飯を食べた後、そのままホテルか相手の家に行くことが多かった。
「明日香さん?」
「あ、ごめん。行こうか」
気を取り直して、予めコンビニ買っておいたチケットを昴に渡す。
「お金払います」
「いや、いいよ。この間は高いディナーご馳走してもらったし」
「いや、男なので払います。格好つけさせてください」
あまりに真剣な表情で昴が言うので、明日香は思わず笑ってしまった。
「子供だと思ってますね?」
「いや、なんかすごく一生懸命でいいなと思って」
「子供ってことじゃないですか」
「そうは言ってないだろ。ほら、遊園地行くぞ」
昴を置いて明日香は走り始めると「明日香さんの方が、子供ですよね。この間のデートの時に思ってましたけど」と憎まれ口が聞こえてきた。