Cosmetics
久々の遊園地は、楽しくないはずがなかった。
普段は混んでいて乗れない乗り物も、なぜか昴と一緒だと早く乗れるチケットが当たったり、たまたま空いていたりした。
「ねえ、なんか親の権力使ってたりする?」
アイスを片手に冗談交じりで明日香が尋ねると「なわけないじゃないですか」と眉をひそめて昴が返答する。
そのやりとりが楽しくなって、明日香はすっかり青年に心を開いていた。
あっという間に夜になって、花火が上がった時に、昴が手を繋いできたのを明日香は振りほどかなかった。
「明日香さん」
「……な、何?」
「僕を助けてくれた明日香さんに、一目惚れしました。僕と付き合ってください」
「いや、でも君未成年だから」
「未成年んだからダメってことは、二十歳になればいいということですか?」
「ま、まあ理論上はそういうことになるよね」
「なるほど。じゃあ、カップル成立ですね」
「いや、ちょっと、君私の話聞いてた?」
「はい。明日香さんが僕の告白を断ってきたのは、僕が嫌い、生理的に受け付けないということではなくて、年齢が法的措置を取られてしまうからってことですよね。つまりは、明日香さん僕のこと好きですよね。明日香さんみたいな人って、嫌いな人にはちゃんとはっきりと物を言いそうなので、前向きに解釈をしておきます。今日逃すと明日香さん会ってくれなくなりそうなので」
「うーん。よくわかっているな」
まだ出会って少ししか経っていないのに、明日香の行動をよくわかっている。
「大丈夫です。僕が二十歳になるまで、キスまでにしておいてあげます」
ぐっと引き寄せられて、顔が近くに寄せられる。さっき昴からガム食べますか?と聞かれたのは、このためだったのか。
ちくしょう。古典的な手を使いやがって。
レモンミントの香りがほんのりする。
「昴君。ちょっと……」
唇が重なった時には、明日香の抵抗など形だけだったのだと昴にはとっくにバレていたのだと気づいた。
不器用なキスは、ほんのりレモンミントの味がした。
唇を離すと、お気に入りのリップの色が青年の唇にうつっている。紫がかった色味は、意外にも昴に似合っていた。
「明日香さんの口紅ついてます?」
「うん。ついてる。これだけは、変わらず、ずっとお気に入りなんだよね」
「僕も、ずっと明日香さんのお気に入りになりたいです」
「アホなこと言うなよ」
明日香は笑いながら指で青年の唇から、リップを拭った。先ほどまで、明日香の唇に触れていた、青年のそれは明日香の指によって形を自由自在に変える。
「あ、そうだ。証言は必要なくなりました」
「は?」
「デートまでに余計な雑念取っぱらいたくて、教師、親など巻き込んで奴らのことを告発し、厳重注意及び停学に追い込みましたからね。明日香さんとデートをするために、協力してほしいなんて嘘ついてて心苦しかったです」
いけしゃあしゃあと言う青年に、明日香はしてやられたとため息をついた。
「あんたって奴は……」
「既成事実作りましたからね。手放しませんよ。明日香さん」
「いいけど、私、飽きっぽいから注意してね」
「大丈夫ですよ。未成年で一回り違うってだけで、緊張感あるでしょ」
一枚も二枚の上手の彼氏となった男は、今まで付き合ったどの男よりも手強そうで、好きにはなれそうだ。