Cosmetics
「葉山さんっていいよね」
幼い頃からそう言われてきた。まるで違う生き物を見るかのように。時に、自分は同じ人間ではないのだろうかと疑問に思うことすらあった。
お気に入りのDiorのリップを変えただけで「お金持ちはいいよね。たくさんそういうの買うお金があって」と言われることもしばしばで、何か相手に恨みでも買うような真似をしたのだろうかと不安になることも多い。
単に、お金持ちでブランド物を持てる麗奈に対して、嫉妬心を抱いているだけなのだが、これが当たり前のように過ごしてきた麗奈にとって、何が問題なのか分かるはずもなかった。
旦那に選んだ葉山 慶一朗はそんな麗奈の気持ちを手に取るように理解し共感してくれた。
「気にする必要はあらへん。俺が麗奈のすべてが好きだったんやから、気にせず好きなことをしてくれてかまへんよ。一生貧乏な生活とは無縁でいさせたる」
投資家として名前を馳せている旦那は、麗奈をしばらくの間楽にさせてくれた。
幼い頃から続けてきた乗馬もピアノも、クリスマスシーズンになると必ず見に行くロシアバレエ団も、何もかもが幼い頃と同じにしてくれた。
左手の薬指に付けられたハリーウィストンの指輪も、遊び心で始めたInstagramに掲載すると瞬く間に「いいね!」の数が五桁となった。
広告収入ができるように慶一朗がしてくれたので、投稿したものでいいねが多いものに関してはある程度の収益を得ている。
「いいですね!羨ましい!」
「憧れます!」
「そんな風にどうやったらなれますか?」
様々なコメントが写真をアップするたびに、寄せられる。
SNSを通して、世間を見るうちに自分が富裕層と呼ばれる地位でであることを自覚した。
それと同時に、自分だけでは何もできないと自覚してしまったのである。
こんなに何もできない女の何が羨ましいのだろうか。
幼い頃から結婚するまでは、親の力、結婚してからは旦那の力だというのに。
麗奈自身には、何も取り柄はないことに気がついたのは、写真に載せているもの全てが誰かからプレゼントされた物だと指摘されたからだった。
あなた自身は大したことないですよね。
その何気ない言葉は、何も疑問に思ってこなかった麗奈の心に深く刺さった。