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「無視していい。そんなヘイト発言は」

 高校時代に塾で隣の席だった赤石恭子はため息混じりに麗奈に言った。

「でも、これが世間の声よね……」

「そんなの嫉妬にまみれた一部の人間だから。プレゼントしてくれる男をゲットしただけで、それだけ麗奈に価値があるってことよ。自分のプレゼンが上手くいったの。自信を無くすポイントなんかどこにもないよ」

 恭子は、あまり麗奈を特別扱いしない。麗奈が金持ちだと知った時も、金持ちと結婚した時も
「おめでとう!」と心の底から祝福してくれた。

 私は、私。あなたはあなたと言ったさっぱりした性格の彼女には何度も救われた。

 だから、彼女が意図せず不倫をしてしまったと告白された時には、そんな簡単に情に流されるタイプだったのかと些か心配したものだ。

 今は職場の同期の男の子と付き合って、幸せにやっているらしい。

「いい旦那さんなんでしょ。何をそんなに不満に思うわけ?」

 結婚式にも参加してくれた恭子は、慶一朗のことを知っている。

 不満があるわけじゃない。大切にされていることが、嫌なわけではない。

「う、うん。でも……」

「あ、わかった。あっちの方がダメってこと?」

 まるでセクハラ親父のように、ゲスっぽい笑みを浮かべて恭子は麗奈に「早漏とか」と白昼堂々
の表参道のレストランで言った。

「ちょっと……恭子。声が大きいわよ」

 首を大きく横に振って、麗奈は小さな声で「私ばっかりなの。優しすぎるくらい優しいの。慶一朗さんは、気持ち良くならないの」と呟いた。

「ごめんごめん。つい。でも、割と、Sっ気ありそうな旦那なんだけどなあ……。大事にされてるってことでいいんじゃない?」

「ううん。きっと私がつまらないからだわ」

 一旦考え始めると、どんどんネガティブになってきた。

 なぜ、慶一朗は麗奈と結婚したのだろうか。

 麗奈の父が、資産をたくさん持っているから、資産目当ての政略結婚だったのかもしれない。

 投資家として活躍している慶一朗は、家で絶対仕事をしない。

 自分のマンションをまだ仕事場として使っている。

 もしかしたら、浮気をするためにマンションを残しておいたのかもしれない。

 だから、麗奈との夜はあっさりで終わってしまうのだ。

「不安なことや、気持ちが分からないなら、本人に聞くのが一番早いと思うけど」

 私は、相手に言い過ぎているけどね。と自嘲気味に話す恭子は、麗奈よりもストレスが少ないように感じた。

「でも、はしたなくないかしら?」

「ストレス溜め込んで、モヤモヤしたままの方がずっと良くないと思うよ」

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