Cosmetics
ランチを取った後、麗奈は家に戻って食事の準備をする。
ネイルサロンに行ってジェルネイルをしているのは、家事をしている時に爪に塗っているマニキュアが剥げるのが嫌だからだった。
自分の美容代は広告収入でやりくりしている。
慶一朗は気にしないでお金を使ってくれていいと言ってくれているが、養われるばかりでは気がひける。
結局、その広告収入も慶一朗からのプレゼントなので、結果的には一緒だが。
新しい爪は、非常に気に入っているが、麗奈の気分は晴れなかった。
結婚して、楽になったはずなのに、今度は楽にさせてくれた夫の意図がつかめず苦しくなっている。
例えば、好きな料理を取っても、慶一朗は麗奈の作ったものなら、なんでもいいと言って文句一つつけない。
本当は好きじゃないのに、無理しているのかもしれないのに、なぜ正直に言ってもらえないのだろう。
夕食は、和食だ。
少し暑い日だったので、肉じゃがと酢の物を作った。慶一朗が帰ってくる時に合わせて玄米を炊いて、テーブルの上に箸と皿を並べる。
時間になると、鍵の開く音がして慶一朗が帰ってきた。
「ええ匂いやな」
「お帰りなさい」
「ただいま」
手を洗って、大事な夫は、麗奈のことを抱きしめる。少しだけ、シャンプーの香りがした。
ハッと顔を上げると、慶一朗は悪びれも無く「今日は暑かったからなあ。シャワー浴びて来たんや」と言った。
本当に、それだけ?
麗奈は、自分が思ったことに唖然とした。
私、疑っているんだわ。
「どうした?麗奈」
顔色が変わった麗奈のことを察したのか、慶一朗は麗奈と視線が合うようにかがんだ。
「いいえ、なんでもないわ。今日は、肉じゃがと酢の物作ったの」
「おお!酢の物ええなあ。今日みたいな日にぴったりや。そういえば、お土産」
慶一朗が麗奈に差し出したのは、Diorの紙袋だった。
「新作出たって言ってたやろ」
袋を開けると、大量の化粧品が入っている。一番好きなブランドの化粧品に、少しばかり気分が上がると同時にまた養われてしまったと複雑な心境になる。
しかし、プレゼントしてくれた夫にそんな心境を打ち明けるわけにはいかない。
「ありがとう。嬉しいわ」
心の底から感謝の気持ちを述べて、麗奈はもらったプレゼントを自分のメイク道具がしまってあるドレッサーに持って行った。
そこには、慶一朗からのプレゼントで溢れている。