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「麗奈。ちょっと、この画面見てくれへん?」
冷静な声色で慶一朗は言った。
涙をバスローブの袖で拭いて、差し出されたスマホの画面を見る。
そこに書かれていたのは、「麗奈の誕生日パーティー」と書かれたトーク画面だった。
電話の履歴もつい先ほどの時間を指している。
男性の名前だった。
トーク画面の中でも「奥さんの誕生日成功することを願ってます!」と明るい言葉が書かれていた。
嘘はついていない。
「え……」
「ほんまは、サプライズでしようと思うとったんやけど。浮気を疑われるくらいなら、正直に言うわ。今のも、電話はサプライズの会場を押さえておいてくれた後輩、しかも男や」
「私……ごめんなさい」
顔が真っ赤になるのを感じた。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。
「大事な大事な奥様が、そないなことを考えてるとは知らんかったわ」
「ごめんなさい」
「謝ることあれへん。俺も、大好きな子とようやっと結婚できたから、無理しててん。不安にさせて堪忍な」
「ううん。私の方こそ、早とちりして……」
「俺、ずっと背伸びしててん。麗奈の実家が金持ちやったから、背伸びしてはよ追いつかなくちゃって考えとった麗奈が逃げて行ってしまうのが怖かってん。せやけど、夫婦っていうのは、しゃんと腹割って話されへんと続かへんよな」
「私も、自分に自信がなくて……みんなが羨ましい言ってくれることの方が多かったけど、実家のお金以外取り柄ないもの……」
「そんなことあらへんよ。麗奈はええ子で、料理も上手くて、気遣いもできる世界一の俺の妻やで。。Instagramでもちゃんと麗奈は結果出して、稼いどるやん。確かに載せているのは俺からのプレゼントやけど、顧客がついてるのは、紛れもなく実力があるからや。自信持って欲しい」
「うん……」
「ちなみに、マンション未だにつこてるのは、他にもメンバーがおるからや。俺、やきもち焼きやから、仕事仲間とは言うても、そこらへんの男に自分の愛する奥さん見られとおないねん。でも、心配ならマンションも見に来てくれてかまへんよ。愛妻弁当持ってな」
抱き寄せられて、麗奈は自分の身体を慶一朗に預けた。
「誕生日、楽しみにしててな」
「はい……楽しみにしてます」
「愛してるで」
「私も、愛してます」
「ところで、奥さん」
抱きしめた状態のまま、慶一朗が麗奈にいたずらっぽい笑みを浮かべながら、とんでもない発言をした。
「セックス、もっと強引にしても大丈夫なんよな」
「……そ、それは忘れてください」
顔から火が出るほど恥ずかしい発言をどさくさに紛れて、してしまっていた事実に気がつく。
「忘れるわけあらへんやろ」
顎をぐいっと持ち上げられて、深いキスを落とされる。舌が絡まって、卑猥な音が廊下に響いた。
あまりの気持ちよさに腰が砕けてしまいそうだ。
「け、いちろうさ……ん」
「なあ、ちゃんと欲しいところ言うてや。むちゃくちゃにされたいんやったら、お望み通り」
意地悪そうに笑う、慶一朗の顔を初めてみた。
割と、Sっ気ありそうな旦那なんだけどなあ……。
恭子の言葉が脳裏によぎる。
無理に、我慢して隠されるよりずっといい。
Diorが好きな理由、初めて慶一朗がプレゼントしてくれたのが、そこのブランドだったからよ。というのは、夜伽が終わったら、本人にちゃんと伝えよう。
明日のお昼は、お弁当を持って旦那の職場を訪ねよう。
できることは少ないが、まずはできることからだ。