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 恭子は池袋駅西口から徒歩二分の場所にある不動産屋で事務の仕事をしている。

 営業の男たちを見送って、彼らが仕事をしやすいようにデータをまとめ、店舗の掃除をしたりする。それが彼女の仕事だ。

 新卒から勤めて五年も経てばミスも少なくなるし、お局ポジションも目前だ。

 女性の社会進出が謳われる中、恭子はその恩恵を受けている気は全くしなかった。大金持ちと結婚して幸せになりたい訳でも、社会進出して女性と代表になりたいなど大それたことは考えていない。

 自分だけを愛してくれて、自分と一緒に人生を進んでくれるパートナーが欲しいだけだ。

「知ってると思ってたよ」

 あんな簡単に、何でもないことのようにあっさり踏みにじることが出来ただなんて。

 男女平等だなんて絶対嘘だ。

 仕事が終わるといつも一目散に職場を出るが、その日は一人暮らしをしているマンションに帰りたくなかった。

 一人でいれば、嫌でも彼のことを思い出してしまう。早く忘れることができればいいのに。
 
 忘れなくてはいけないと思えば思うほど、恋しいと感じてしまう自分が嫌だった。
 
 小さくため息をついて仕事を探す。仕事など無限に作ることができる。
 
 アラサーが失恋すると、仕事に逃げるとどこかの雑誌に載っていたけれど本当だな。
 
 自嘲気味に呟いて、恭子が仕事を続けていると突然人気のないオフィスに人が飛び込んできた。

「きゃああ!」

「うわぁっ!」

 突然の来訪に、恭子が悲鳴をあげる。その悲鳴に相手が驚きの声をあげた。

 同期の畑 優太(はたけ ゆうた)がその人物だと分かった瞬間、恭子は半分八つ当たりにも等しい態度で、彼に怒鳴りつけた。

「バカ!畑!驚かさないでよ!」

「誰がバカ畑だ!」

「そんな事言ってないでしょ!バカ畑なんて!」

「現在進行形で口に出してるのは、どこのどいつだ」

「もういい!」

 ため息をついて恭子はそっぽを向いた。

 この同期と話していると思春期の中学生に戻ったような気持ちになる。

 大人の女にならねばならない。

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