Cosmetics
自分の机に戻ると、優太の姿はなかった。
さすがに帰ってしまったのかと思ったが、彼のパソコンの電源はついたままだ。
本当は優太が、恭子を心配して残っていてくれていることに気がついていた。
戻ってきたら、お礼言わないとだよね。
恭子が感謝の気持ちを伝えようと考えていると、コンビニの袋を抱えた優太が戻ってきた。
「飯買ってきた。お前も食う?」
「食べる」
財布を取り出して、お金を払おうとすると「俺のおごりだ」と優太は受け取らなかった。
「やだ。払う。だって、今日は畑に助けられてばっかりだし。お礼もしたいもん」
「頑なかよ。じゃあ、次、俺が告白成功したら今度奢ってよ。これから告白するから」
恭子は一瞬ドキッとした。
同期としてしか見たことがなかった優太が、突然男らしく見えたからだ。
「は?畑、好きな人いるの?」
誤魔化すように驚いてみせる恭子に、優太は嬉しそうな表情を浮かべた。
「教えません」
「なにそれ、気になるじゃん」
「ほら、飯食うぞ。俺、焼肉弁当がいい」
前のめりになる恭子に、焼肉弁当を自分の目の前に置いて、優太はパスタを彼女の机の上に置いた。
「え、私も焼肉弁当が食べたい。なんか、お腹すいた。がっつりお肉食べたい」
「しらねーよ。早いもの勝ちだし。お前は、このパスタでも食っとけよ」
そんなことを言いながら、優太は焼肉弁当の方を譲ってくれた。なんだかんだ優しいやつである。
「で、畑の好きな人って誰?私の知ってる人?」
焼肉弁当を頬張りながら、恭子は尋ねた。
優太は、こんなことなら、唐揚げも買ってくればよかったと後悔しているところだった。
「えー。なんで教えないといけないんだよ」
「いいじゃん。同期のよしみだし」
「そうだな。じゃあ、ヒント。オレンジのリップが似合うのに、無理して好きなやつのために、似合わないピンクのリップをつけてる女」
「……え」
「俺、そっちの色の方が似合うと思うぞ。飯食って落ちてるけど」
驚き、目を見開く恭子に「結論は今出すなよ。一回デートしてから決めてくれ。まあ、断らせないけどな」と最後の一口を食べ終わった優太は笑った。